国の文化審議会は、平成30年1月19日、「秩父吉田の龍勢」を国の重要無形民俗文化財に指定するよう、文部科学大臣に答申しました。今後、指定書の交付、官報告示を経て、正式に国の指定となります。秩父市の国指定文化財は、有形文化財の内田家住宅、民俗文化財の秩父祭屋台、秩父祭の屋台行事と神楽、記念物の栃本関跡、古秩父湾堆積層及び海棲哺乳類化石群に加え、6件目となります。また、打ち上げ式の煙火の国指定は全国初のものです。
今回の指定は、吉田地域の皆様、保存会の皆様が、長年にわたり努力を重ね、伝承に尽力されてきたことの賜物であり、これまでの並々ならぬご尽力に敬意を表するとともに、秩父市民をあげてお祝いしたいと思います。
秩父吉田の龍勢は、製造から打ち上げまでを地域の人たちが行っている打ち上げ式煙火の希少な伝承例です。また、龍勢製造所を地域内に設け、火薬の管理や製造に取り組むなど、保存の体制も整っています。さらに、伝統をしっかり守るとともに、秩父を舞台にした龍勢も登場するアニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない」にちなんだ「あの花龍勢」を毎年打ち上げるなど、新たな要素も取り入れています。
地元の秩父市立吉田小学校では、毎年3年生が総合的な学習の時間のなかで龍勢について学んでいます。吉田龍勢保存会の方が講師となり、松や竹を実際に使った「ミニ龍勢」を製作したり、打ち上げ前の口上・太鼓などにも取り組み、発表をしています。また、秩父市立吉田中学校でも、3年生が総合的な学習の時間で龍勢伝承学習に取り組み、口上・太鼓で龍勢祭に参加したり、生徒が製作した落下傘を実際に打ち上げています。
秩父・吉田地域では、近代教育の先駆者、吉田小学校の初代校長 増田玄次郎先生の教えである『不言感化』の教育が現在も教育の根底に流れています。
百の説法より 一の実行尊く、
百の訓言より 一の教師示範に真価あることを 忘るべからず
不言感化こそ 教育の真髄なり(吉田小学校初代校長 増田玄次郎)
龍勢に対する一途な想いと地域の皆さんの熱心な指導を通して、不言感化、地域への愛着と伝統文化を愛する心をしっかり育てています。
秩父吉田の龍勢について(吉田龍勢保存会ホームページ)
http://www.ryusei.biz/
2018年2月7日
平成30年がスタートし、3学期の授業も始まりました。本年もよろしくお願い申し上げます。引き続き、緊張感を持って学校運営にあたるとともに、秩父市の子どもたちに少しでも良い教育を行い、その持てる力を最大限に伸ばし、次のステップへと送り出せるよう尽力したいと思います。
1月7日(日)、秩父市では成人式が行われました。新しい市民会館大ホール・フォレスタで、新成人の門出をお祝いしました。例年のことですが、秩父市の成人式は新成人主体で運営され、厳粛な中にも温かみのある、大変良いかたちで行われていると思います。「旅立ちの日に」の全員コーラスでの締めくくりには感動しました。中学時代の恩師の紹介に対する彼らの熱い拍手を聞きながら、秩父市での学校教育も、きっと新成人たちの成長の一助になったものと嬉しく思いつつ、義務教育の実施に責任を持つ者として、その職責の重さを再確認しました。
さて今年は、4月から新幼稚園教育要領の全面実施、小学校および中学校については、新学習指導要領の移行措置が実施されます。新学習指導要領等を読み返してみて、改めて、これまでの学習指導要領とは違うことが強く感じられました。地域とともにある学校として、「社会に開かれた教育課程」を実現する上で必要なこと、それは、わかりやすい教育課程の基準(学習指導要領)が示されることです。学習指導要領は、それが大綱的な基準として法的拘束力を持つということもあり、これまで、行政の趣旨説明会を聴き、解説書等をあわせ読んで、ようやく理解できたという点も少なからずあったのではないでしょうか。今回の新学習指導要領では、一昨年12月の中央教育審議会答申で提言された「学びの地図」としての役割について意識して書かれているのを感じます。「学びの地図」とは、「生涯にわたる学習とのつながりを見通しながら、子どもたちの多様で質の高い学びを引き出すことができるよう、子どもたちが身に付ける資質・能力や学ぶ内容など、学校教育における学習の全体像をわかりやすく見渡せる(28年12月21日中央教育審議会答申より)」地図、すなわち学習指導要領とされています。子どもたち自身、学校関係者のみならず、保護者、地域の皆様が共有できるようにすることを意識して示されています。学習指導要領等の枠組みを、幼稚園、小学校、中学校、高等学校および特別支援学校について共通の視点で整理する中で、教科等の縦割りの問題や、学校段階におけるギャップ(小1ギャップ、中1ギャップ等)の問題、インクルーシブ教育システム構築に向けた課題等を克服しようとしている意思が見てとれます。
今回、全ての学校種の学習指導要領等に共通に「前文」が新設されました。幼稚園、小学校、中学校、高等学校および特別支援学校におけるそれぞれの教育が、教育基本法第1条に定められる「人格の完成を目指し」という教育の目的につながるものであることが明確に示されるとともに、当該学校における教育課程の意義、社会に開かれた教育課程等について、一読でわかりやすく示されています。
秩父市教育委員会では、既に新学習指導要領対応方針(暫定版)を策定し、校長会議を通じて全学校にお示ししています。現在、研修会の実施や情報収集、予算の確保等に取り組んでおり、今後、学校や関係機関とも情報共有を図りながら、学校間、教科等の間の学びのネットワークを構築し、新学習指導要領等の趣旨をしっかりと実現するよう尽力してまいります。
2018年1月15日
今年も、残すところあとわずか。子どもたちにとっては、クリスマス、お正月が待ち遠しい季節です。年末年始、ゆるみがちな気持ちを引き締め、引き続き幸せな日々を送れるよう、心から無事を祈りたいと思います。
さて、秩父市にとって冬の最大行事である秩父祭も、12月3日の本宮、30万人を超える方々にお越しいただき、無事終了しました。文化庁や埼玉県教育委員会からも多くの方々にお越しいただきました。
私にとっては3度目の秩父祭ですが、毎年の驚きは、祭当日に向け、粛々、着々と準備が進められることです。官民協働の巨大プロジェクト。そのための大きな組織を強力なリーダーシップで動かす、そんな雰囲気でもありません。
神社、笠鉾・屋台町会、観光協会、警察、市役所、西武鉄道、秩父鉄道、露店商の皆さんが、これまでの経験から、皆、自分が何をすべきか、しっかりと心得ています。したがって、仕事が粛々と進みます。そして、毎年行うことで、それがしっかりと継承されています。学校もそうありたいと思います。教職員が何をすべきか共通理解し、目標に向け、一丸となってやるべきことをやる。そのためには、校長がミッションとビジョン(目標に向かう道筋)を明確に示すことが大切だと思いました。
秩父祭は、昨年12月にユネスコの無形文化遺産に登録されました。それから1年。秩父市教育委員会では、これを機に、夏の川瀬祭の7月20日と秩父祭の12月3日を「秩父市伝統文化に親しむ日」とする教育委員会規則を制定し、この両日を学校管理規則上の休業日に位置づけました。この両日は、子どもたちには授業のことを気にせず、秩父の素晴らしい伝統文化である祭を、ご家族や地域の皆さんと楽しんでほしい。そして、秩父市の素晴らしい祭、伝統文化に親しみ、それらの次代の担い手になってほしい。そんな想いから、この日を制定しました。
今年の全国学力調査では、学校の取組、子どもたちの頑張りで、良い結果を残すことができました。「基礎学力の向上」と祭、伝統文化などの「秩父の良さ」を両輪に、知徳体のバランスのとれた秩父市の次代の担い手を育てていきたいと思います。
川瀬祭(毎年7月20日)の様子
https://navi.city.chichibu.lg.jp/p_festival/1273/
秩父祭(毎年12月3日)の様子
https://navi.city.chichibu.lg.jp/p_festival/1030/
「秩父市伝統文化に親しむ日」の制定について
http://www.city.chichibu.lg.jp/7303.html
平成29年度全国学力・学習状況調査の秩父市全体及び各学校の結果・分析
http://www.city.chichibu.lg.jp/7307.html
2017年12月21日
秋色に染まった秩父の山々が、澄みわたった青空に映えています。秋は、多くの学校行事があります。先日、秩父地区の小・中学校音楽祭に出席しました。新しくなった秩父市民会館・大ホールフォレスタに、子どもたちの澄んだ歌声が響きわたりました。また、秩父市青少年健全育成推進大会では、小・中学生の「青少年の主張」の入賞者の発表が行われました。その中で、小学6年生の女子児童の発表がとても素晴らしく、印象に残りました。将来、看護師になりたいという希望を持つ女子児童。母親が看護師として働く姿に憧れてのものでしたが、それだけではありません。女子児童が母親を凄いと思った理由は、母親が看護師として患者への病気の対応を行うだけでなく、女子児童の祖母(ご本人の母親)の終末期看護を家庭で行い、最期は自宅での時間を過ごしながら逝きたいという祖母の希望を実現させたためでした。そんな看護師の母親の姿を見て、自分も看護師になりたいと思うというものでした。自身の祖母の終末期にあたり、看護師である母親の対応を通して、終末期医療、ターミナル・ケアという社会問題を、子どもらしい優しい表現で、力強く提起した小学6年生の女子児童の主張は素晴らしいと思いました。
学校訪問をしていて、子どもたちの「新しい力」が、確かに伸びているのを感じます。総合的な学習の時間が学校教育に導入された平成12年(2000年)から17年が経過しました。子どもたちの自己の主張を明確に述べる力、説得力ある表現力など、新しい力が明らかに伸びつつあるのを感じています。秩父市の子どもたちに、確かな学力の基礎である「知識・技能」とともに、「思考力・判断力や表現力」、あるいは、「学びに向かう姿勢」をはじめ非認知能力など、これからの不透明な時代を生き抜く力を更に育てていきたいと、改めて思いました。
さらに、これから社会の中でとりわけ必要となる情報活用能力(ICTの活用能力やプログラミング的思考力)やコミュニケーション手段としての英語力についても、しっかり身に付けさせたいと思います。特に、英語学習については、国をあげた英語教育改革の中で、新学習指導要領で小学校に教科・英語科が新設されており、来年度からの移行措置、2020年度の全面実施に向けてしっかりと取り組むとともに、秩父市教育委員会としても、秩父市英語土曜学習のセカンド・ステージとして、本年10月からネイティブ・スピーカーから使える英語を学ぶ、「チチブ・イングリッシュアンバサダークラス」※を開設しました。
このような「いろいろな力」については、教科の指導以外に生活を送る上で必要となる力も含め、日本では、学校教育で対応してきました。かつての日本人の歩き方である「なんば歩き」(右手と右足が同時に出る。武道、歌舞伎、能・狂言に見られる)も、明治の学校体育で西洋方式の行進の指導を取り入れた結果、手と足が逆に出る現在の歩き方になったとも言われています。学校教育が、生活全般、歩き方まで変えてきたのです。欧米で行われている、家庭や社会との分業による学校教育とは異なる、このような総合的な学校教育は、世界的にも評価されています。しかし、少子化の中、学校規模・教職員集団も小さくなり、このような要請を支えきれなくなってきています。これに対して、これまでの日本の学校教育の伝統である「知・徳・体」のバランスのとれた教育を引き続き行うため、学校間の連携をより強めたり、業務改善、コミュニティ・スクールによる家庭・地域の学校運営への参画を進めたりすることを通じて、持続可能な「地域の誇り」となる学校を創っていきたいと思います。
※秩父市英語土曜学習「チチブ・イングリッシュアンバサダークラス」
市内4か所の会場で、来年3月まで11回開催。ネイティブ・スピーカーから使える英語を楽しみながら学び、最終回の来年3月24日(土)には「チチブ・イングリッシュPRコンテスト~秩父の良いとこ自慢を世界へ発信~」を開催予定。
次のURLからチチブ・イングリッシュアンバサダークラスで学ぶ生徒たちの楽しい様子をご覧になれます。
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http://www.city.chichibu.lg.jp/7220.html
2017年11月22日
10月8日(日)、前々日からの秋雨一過、晴れわたる青空の下、秩父吉田で龍勢祭が開催されました。25の流派による龍勢(手作りロケット)が、白い煙を噴射しながら、昇天する龍の如く一気に秋の青空を登り、上空約300メートル辺りで花火に点火。色とりどりの火花が輝き、唐傘やパラシュートに吊られた矢柄がゆっくり降りてきます。「秩父吉田の龍勢」は、現在、埼玉県指定の無形民俗文化財ですが、国の重要無形民俗文化財の指定を目指し、文化庁に詳細な報告書を提出しており、早期の国の指定に向け期待が膨らみます。
祭りでは、吉田小学校、吉田中学校、大田小学校の子どもたちも、落下傘の共同制作や龍勢奉納前の口上に参加しています。口上は大変緊張するものですが、「東西、東西~、ここに掛け置く龍の次第は~・・・椋神社の大前へご奉納~」と、9万人以上もの観客の前で、堂々と立派に役割を果たすことができました。
子どもたちが地域の祭りに参加するということは、多くの人々との関わりを持つということです。同じ年代の仲間との横の関係だけではなく、上下、斜めの関係である祭りを伝えて来た地域の方々、祭りの観客の方々。このような多くの人々との関わりの中で、学校教育だけでは育たない、大切なものが育まれているものと思います。
「非認知能力」は、政府の教育再生実行会議の議論の中でも、就学前教育において、非認知能力を鍛えることにより、その後の学力向上などにも有効に働くといった議論がなされたり、雑誌でも「子どもの生涯年収を決める非認知スキル」などと取り上げられたりするなど、注目されています。一言で言い表すことが難しい言葉ですが、ネットで検索すると、目標を達成したり、他者と協力したりするために必要となる「忍耐力」、「やり抜く力」、「努力する力」、「社会性」、「自制心」、「思いやり」といった言葉が見られます。今後、社会で生きて行く上で、あるいは成功する上で、必要な力と言えます。まさに秩父の子どもたちに見られる、真面目で、コツコツと、皆で協力しながら頑張る姿が、これに当たるものと思われます。祭り、伝統文化への取組み、地域での活動を通じた体験により、このような力が培われているように思えてなりません。
今年度の、全国学力・学習状況調査の結果が、埼玉県下、市町別に公表されました。秩父市は昨年に比べ、大変良い結果となっています。ここ数年取り組んでいる授業改善の取組みに確かな手応えを感じています。もちろん、全国学力調査は学力の一部を示すものであり、年々の結果の上下に一喜一憂するつもりはありません。ただ、これまで続いて来た低い傾向から脱却するために、学力向上のミッションを「子どもたちの未来の幸せのための学力向上」と定義し、これを全教職員で共有し、PDCAサイクルに基づく取組みを実践して来た効果が見えて来たことへの喜びは大きいものがあります。
秩父市の子どもたちが未来に向けて、龍勢の如く高く飛び立つことを祈りつつ、伝統文化の教育などを通じた非認知能力の育成とともに、引き続き、学力向上に尽力します。
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吉田龍勢保存会HP
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平成29年度全国学力・学習状況調査結果(埼玉県市町村分)
2017年10月13日